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2020年4月29日 (水)

渋谷健司氏の論考(3)

今こそ公衆衛生学的視点が必要
 これまでPCR検査は、保健所の許可を得て「帰国者・接触者外来」という場所で行われてきた。この「帰国者・接触者」という聞き慣れぬ言葉に日本のこれまでの感染対策のエッセンスが詰まっている。つまり、海外からの感染者の入国を防ぐ水際対策とクラスター対策(症状のある感染者とその接触者の隔離)を行えば国内蔓延は防げるという伝統的な考え方だ。SARSのように症状が出た時に感染しやすい疾患であればそれは効果があるであろう。しかし、新型コロナウイルスのように、潜伏期間も長く無症状でも感染させる可能性のあるウイルスに関して、初期の段階では急速な感染拡大を防ぐことができたとしても、この先クラスター対策でウイルスを封じ込めることはほぼ不可能だ。

 

 私の専門は公衆衛生学だ。公衆衛生学は、感染をマクロ的な視点から観察し、いかにそれを封じ込めていくかというオプションを様々な観点から検討する。その公衆衛生学の観点から、コロナ禍で大きな被害を受けたイタリアの村で行われた大規模な調査に注目したい。その村では、ロックダウン実施と解除の時に2回住民の詳細な調査(PCR検査、臨床症状など)をした。それぞれ人口の86%と72%を調査することができたが、驚くことに、陽性者の43%が無症状だったのだ。
 無症状感染者が感染を広げる可能性は、既に今年1月に医学雑誌『ランセット』で指摘されていた。それを裏付ける研究が世界で最も権威のある医学雑誌『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の4月23日最新号で報告された。米国の介護施設における詳細な調査では、無症状感染者が感染者全体の半分以上を占め、そこから感染が広がっている可能性を示すものであった。
 これはクラスター対策をはじめ、これまでのコロナ対策の常識を覆すものだ。同誌論説では「無症状感染は現行の新型コロナウイルス対策のアキレス腱」というタイトルで、今までのような症状のある感染者への対応だけでは不十分なこと、そして、無症状感染者への検査拡大の必要性を訴えている。つまり、無症状感染者を検査により見つけ出し、他の人にうつす前に隔離していくことが必要となる。
「検査を絞り重症例を優先すべき」という臨床医学的視点は全く間違いではない。しかし、検査を絞っていては、無症状感染者を見つけ出すことができない。このため公衆衛生学的観点からは、「無症状や軽症例を含めた多くの人に検査を実施すべき」となる。この二律背反した考えによって多くの人が混乱している。それは無理もない、医学界においても全く正反対のメッセージが出ているからだ。しかし、これ以上の被害を防ぎ、感染を拡大させないためにも、クラスター対策から検査の拡大及び無症状感染者等の隔離にも力点を置くアプローチへと移行する段階にきている。

 

 もちろん、このアプローチの前提となるのは、病院への検査希望者の殺到を防ぐための病院外での処理能力が確保された検査体制の整備、そして陽性と判定された方向けの十分な収容施設の確保だ。前者については、東京都等で関係者の尽力によりPCRセンターなどの先駆的な取り組みが始められている。また、大学や研究施設、民間機関などのPCR検査の資源をフル活用していくことも求められる。政府は、人的資源や検査のための試薬の確保へのサポートを強化すべきだ。

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