「立憲主義という企て」(井上達夫東大教授)から(その7)
(立憲主義の実践:現実と憲法の歪みの是正)
憲法9条2項で「戦力の不保持と交戦権の否認」を規定する一方で、自衛隊がいまや世界有数の武装組織として存在。
そして、安保条約の下で、世界最強の軍隊である米軍が沖縄を中心として各地に基地を保有して駐留し続け、ベトナム戦争・イラク戦争をはじめ米国の侵略戦争・対外的武力干渉のために在日米軍基地と米軍兵力を使用してきた。
軍事力は、強力な破壊力をもつ兵器によって人間を組織的に殺傷できる最も恐るべき国家の暴力装置である。だからこそ、それは立憲主義が憲法的統制に服せしめる必要性の最も高い国家権力の構成要素である。
しかし、戦後の日本では、戦力保持と交戦権行使を明示的に禁止した憲法9条2項の規定にも拘らず、自衛隊と日米安保という巨大な軍事力の現実が憲法の外部で存続し、既成事実の累積とその追認という形で肥大化してきた。歴代保守政権がこの現実を形成してきただけでなく、「護憲派」勢力を自認する野党や憲法学者まで、専守防衛・個別的自衛権の枠内なら自衛隊・安保の存在を政治的に容認し、さらには、護憲派の一部は、法理的にも合憲と是認してさえいる。
衝撃的なのはこの事実だけではない。ほとんどの人がこの事実に「慣れて」しまい、もはやこれを「衝撃的」とは感じなくなるほど、憲法の規範性と政治的現実との矛盾への問題意識が風化していること、これがまさに衝撃的である。この現実を放置して、立憲主義の理念を語っても何の意味もない。
日本において立憲主義の企てを実践する上で、何よりもまず、あるいは何にもまして取り組むべき課題は、この9条問題をめぐる現実と思想の歪みである。
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